2020年 ハロプロ楽曲ランキング
※今更2020年の楽曲ランキングです。新型感染症流行に免じて許してほしい。
2020年3月、新型コロナウィルス感染症が世界中を襲いました。新型コロナウィルスはエアロゾルによって感染が広がることから、ライブハウスや劇場におけるクラスターが各地で大量発生しました。世界規模でのマスクやアルコールの不足も重なり、2020年3月から6月にかけて音楽・芸能関係の興業活動はいっさい開催できなくなります。もちろんハロプロも、リリースイベント・コンサート・舞台・握手会などほぼすべての活動が中止や延期になりました。
私は医療従事者なので、その時期は自分のことだけで手一杯です。「中止になるのは当然だ」という科学者としての思考はもちろんありつつも、いちオタクとしては「ハロプロがつぶれてしまうのではないか」という恐怖が常にありました。コンサートがなくなるということは、私の生きる喜びもなくなるということです。ちっぽけな一医師である私にできることは、ただ目の前の仕事を淡々とこなすことと、学校や保育園が休みになった子どもたちをどうにか生きのびさせることだけでした。「ハロメンには心身ともに健康なまま安全な環境で生きていてほしい。私の分まで」と遠くから願うことだけが精一杯の毎日です。
2020年7月11日、ハロプロはコンサートをいち早く再開しました。
夏のハロコン開幕、ソロ&バラードツアー初日にモー娘。譜久村「皆さんの顔見てウルってきました」(写真13枚)
52名のハロプロメンバーがA・B・Cの3チームに分かれ、ハロー!プロジェクトの楽曲ではないバラードのカバーをソロで歌うという斬新な形式です。素晴らしい企画であり、本当によく考えられたアイディアだと私はめちゃくちゃ感心しました。
まずメンバーを3つに分けることで、演者やスタッフの数を絞ることができます。感染者が出たときの濃厚接触者の数も減らせます。公演に穴を開けずにすみますし、万が一1つのチームが全滅になったとしても他のチームで代替公演ができます。
ハロプロのライブといえば、客席のオタクによる大きな声援です。いわゆる「コール」ですね。2020年3月、それは突如「今だけは絶対にやってはいけない行為」になってしまいました。飛沫が飛びまくるから。でも、ハロプロの曲ならばオタクは自然にコールを入れてしまいます。条件反射のようにコールが体に染みついているのです。だからコールが入れにくいバラードにする、念には念を入れてハロプロ以外の曲にする。芸能業界各社に利益を配分できる、つまり何か不備があっても「叩かれにくくなる」というメリットもあったのでしょう。だって記念すべき初日公演の一曲目がAKB48の『365日の紙飛行機』ですよ。完全なライバル同業他社の代表バラード曲をサプライズ披露ですよ。信じられない!過激なファンの中にはAKBグループを目の敵くらいに思っている方だっているというのに!その選曲に私は事務所の強い覚悟を感じました。
コンサートは大いに成功しました。「絶対に口パクをしない」という姿勢を貫いてきた生歌コンサート重視のアイドルだからこそできる素晴らしい企画だったと思います。朋子の『ジュピター』はよかった、まじでよかった。
仁王立ちの小田さくらが歌う『もののけ姫』もまじでおもしろかった、まじでよかった。
客席のルールもずいぶんと変わりました。会場でのグッズ販売なし・一つ飛ばしの座席販売・エリアごとの入場時間を分けての整列入場・規制退場により、観客同士のソーシャルディスタンスが確保されました。マスク着用・検温・会場や手指の消毒も徹底されました。そして極めつけは「全面着席、発声なし」です。これが絶対のルールになった2020年7月11日の中野サンプラザ講演。正直、私はそれが本当に守られるのかとても不安でした。
2020年初頭に(おそらく武道館で起こった転落事故の影響で)客席でのジャンプが一切禁止になったとき、ハロヲタは大いに荒れ、抵抗し、SNSや掲示板上でいっぱい文句を言っていました。そんなオタクの皆さんが、三度の飯より大好きなコールを本当にやめられるのか。本当に黙って座って見ていられるのか。スタッフの言うことをきかないオタクや、発熱しているのに入口を突破するオタクや、つい声を出してしまうオタクは本当に一人もいないのか。コンサート後に反省会という名の「オタク呑み」をしないでいられるのか、本当に直帰できるのか。正直に言うと、私はあまり自信がなかったのです。わたし自身は参加できるはずもないですから、遠くから見守っていました。
……結果として、そんなオタクはどこにもいませんでした。みんなしっかり感染対策のルールを守っていたのです。ジャンプ禁止にすら大荒れに荒れて大論争していたハロヲタたちが、三度の飯より好きなコールを放棄し、静かに着席している姿に私は感動の涙を流しました。ハロヲタってすばらしい。私はみんなが大好きだ。私はかなり長い間コンサートに行けそうにないけれど、私のかわりに参加できる人たちがハロプロを守ってほしい。そう思うに十分な、完璧な感染対策のコンサートでした。演者も、客も。
ハロプロが“観客あり”コンサート 徹底した感染対策の全貌|NEWSポストセブン
安心した私は、2020年10月12日に武道館にて開催されたバラードコンサートに参加しました。一席空け市松模様での座席販売でしたが、チケットは余っていました。小片リサちゃんは急遽欠席となり、かわりに小田さくらちゃんと高木紗友希ちゃんが『会いたくていま』を歌ってくれました。
武道館会場のスタッフの数は例年の2倍ほどもいます。ものすごい厳重ぶりです。スタッフ全員がフェイスシールドとマスクを着用しています。COVID-19クラスター発生時に周囲に連絡するため、観客にはメールアドレスの登録が義務付けられていました。
東京オリンピックをへてきれいになった武道館
列のソーシャルディスタンス
追跡システムのお知らせ
登録するとこんな感じのお知らせが来る
入場は検温→靴裏消毒マット→チケット確認(もぎりなし、見るだけ)→手指消毒という流れでとても円滑でした。グッズの販売はさらに厳重対策だったと聞きます。なんとクレジットカード支払いの端末で暗証番号のボタンを押すために綿棒を提供していたとか。詳細はこちら↓
秋ハロ武道館グッズ販売は中道場で実施
長机1つにつき売り子さん1人で、売り子さんとの間にはビニールカーテンあるし、売り子さんはフェイスガードとビニール手袋装備としっかり対策済み— とざまさん (@tozamasan) October 12, 2020
感染対策を万全に行いながら、なんとしてでも音楽コンサートを実施する方法を模索する姿は本当に素晴らしかったです。医療従事者としての私は皆さんの工夫と努力と試行錯誤に本当に感謝している。素晴らしい、ありがとう。さすがハロプロだ。
……それなのに。オタクとしての私は、着席も声援なしで他人のバラード曲を2時間聴くのは、なかなかにつらかったです。私は2時間半の公演のかなり長い時間、子どもの音楽発表会に参加しているときと同じ静寂に包まれてしまいました。客席で音をたててはいけない緊張感、咳一つ許されない空気、まっすぐに南一階席(おそらく業界の偉い人たちがいる)を見つめて棒立ちで歌う女の子たち(客席の親だけを見て歌う子どもを思い出す)、聞いてるのが少々つらい音程の演者がたまに混ざる感じ、古くて耳慣れた流行歌、そのすべてが合わさって私の中で「習い事の発表会」らしさが増幅してしまったのだと思います。「この既視感はヤマハ音楽コンクールだな!」と。たまに原曲をガラッとアレンジして歌ってくれるメンバーが出てきたときだけハッと目が覚めるのですが。これもまた人間の感情です。
その後、ハロプロのバラード曲が解禁され、次にすべてのハロプロ曲が解禁され、グループを横断したシャッフルメンバー4グループによる「花鳥風月」公演が日本各地で開催されるようになりました。これもまたメンバーやスタッフがCOVID-19に感染して欠席しても柔軟に対応できる、いい作戦だったと思います。
それに対してグループ単独コンサートは、メンバー卒業時しか開催されなくなってしまいました。卒業のうえに単独公演自体が貴重ですから、チケットは争奪戦です。コンサートに参加することができなくなった私は、在宅でさまざまな中継を見て楽しむオタクとして2020年後半から2021年を過ごしました。地方在住の皆さんや都道府県外に行くことが禁止されている職業の方など、同様のファンは多かったのではないでしょうか。
2020年のハロプロ楽曲ランキングは以下になります。
1位 DADDY! DADDY! DO! feat. 鈴木愛理 / 鈴木雅之
TVアニメ「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」OP主題歌。鈴木雅之先生と鈴木愛理ちゃんのデュエット。二人とも抜群に歌がうまい。ハモりも最高。
愛理が小学3年生の頃から彼女を知っているにもかかわらず、MVを見た瞬間に私は「この赤い服の女の子はいったい誰!?とろけるような笑顔がすげえ可愛い!八重歯が最高にキュート!しかもすごい歌がうまい!」と思ってしまった。誰って、愛理だよ。8歳の頃から見てるでしょ。何度も生で見たし、握手だってしたことあるでしょ。そのくらい『DADDY! DADDY! DO!』の愛理はひどく新鮮で、ひどく可愛かった。
The First Takeにおける一発撮りも最高だった。
愛理はすごい。愛理を見ていると私はいつも、美少女戦士セーラームーンの作者・武内直子先生がセーラームーン実写化の際に語った名文を思い出す。以下に部分引用する。
「女の欲望って果てしないのね。この星と人間を支えているのは女。女は大きくてもちっちゃくてもオンナ。オンナのパワーの源は夢でも恋愛でもなく欲望ですよ、皆様。願わくはオーディションで選ばれた美しい少女達が、欲望のカタマリでありますように。そうすれば実写版は大成功することでしょう。」
鴻上会長もびっくりの欲望の肯定っぷりである。武内先生はすごい。そう、女を生かすのはすべてを欲しがる欲望なのである(おそらく女じゃなくてもそうだと思う、当事者ではないので断言できないが)。
愛理は生まれながらにして、多くの女子が心の底から欲しがる要素をたくさん持っている。すべてを生まれながらに手に入れていると言ってもいいほど、彼女はたくさんのものを最初から持っていた。そしてそれに飽きたらず、さらに上の肩書きや実績を貪欲に手に入れようとし続けている。
彼女は両親ともに有名なプロゴルファーの娘だ。きっと生まれながらのお金持ちであろう。8歳でハロープロジェクトのオーディションに合格してアイドルに選ばれた。歌唱力は幼少時から抜群に高かった。声質もいい。成長し、美しい美貌と完璧なスタイルを手に入れた。℃-uteという女性アイドルグループで絶対的センターとして降臨しつづけ、武道館でも横浜アリーナでもさいたまスーパーアリーナでもライブを成功した。Bouno!で『初恋サイダー』という女性アイドル界でも一、二を争う名曲を手に入れた。慶応SFC卒業という華々しい学歴も手にした。ソロでも武道館公演を成功させた。そして今回、アニソンとしても圧倒的な名曲を持ち歌として手に入れた。NHK教育テレビでクラシック音楽にまつわるレギュラー番組もやっている。
このどれもが、「たった一つでもいいから手に入れたい」と渇望している女性タレントが何万といる実績だ。「そのうちのたった一つだけでもいいからほしい、私にください」と思う人間はごまんといるだろう。そんな多くの女性アイドルにとっての「目標」を、愛理は一人で10個も20個も手に入れている。そしてこれからもさらに上に行こうとしている。すごい。
武道館公演で『DADDY! DADDY! DO!』を一人で歌う愛理
私はただのオタクなので、愛理を見て「おもしれー、どこまでいくんだこの女!まじすげー、まじおもしれー、どんどんいけー!!」と遠くからニコニコしているだけだ。でも実際に彼女の近くにいると、心中穏やかではいられなくなってしまう人間もきっといるだろう。嫉妬という感情の制御はとてもむずかしい。愛理が持っているものへの嫉妬や羨望や驚愕や落胆で、おかしくなってしまったり、心が折れてしまう人も、彼女のまわりには少なからずいるのではないだろうか……。ついそんな妄想をしてしまう。そしてそんな周囲の感情などまったく意に介さず、これからも欲望のままに突き進んでいくであろう愛理の姿は、狂おしいほどに魅力的なのである。
そしてついに──これは2022年の出来事だが──彼女はついに有名プロサッカー選手との交際を公表した。しかも彼女の親御さんの御紹介でのお付き合いらしい。ちょっとこれはすごいぞ。愛理の欲望がまさに世界を動かしている。「欲しがりたまえ!貪欲に!欲望こそ生きるエネルギー!」って鴻上会長が私の脳内で叫んでいる。愛理にはぜひこのままどんどん行けるところまで突き進んでほしい。
2位 ポップミュージック / KAN
Juice=JuiceのカバーよりもKANさんの原曲が好き。57歳の男性が歌うからこそ、この曲の歌詞は深みが増す。ぎこちないダンスも、心地よい高音の声のかすれも、突然の転調も、歌唱中のちょっとした表情も、壮年の男性歌手だけが出せる悲哀が随所にあふれている。
サビの歌詞「ぶっちゃけ聞くけど トップってどんなフィーリング?」は、『愛は勝つ』でポップミュージックのてっぺんを実際に取ったことのあるKANさんだからこそ意味が出る。一位を本当に取ったことがあるKANさんが30年後にこの曲を歌っているから、いい。すっとぼけているけど、KANさん、あなたはトップのフィーリングを知っている数少ない人間のはずでしょう?……その前提があるから、この曲はからっと明るい。歌詞がねたみやそねみに聞こえない。若い女子の間で大流行中のタピオカミルクティは近いうちに廃れると予見しつつも、決して否定はせずに「でもいつかまた会いたいね」と言葉を選ぶところもいい。
そして、曲の最後にKANさんはリスナーに向かって突然ボールを投げてくる。「ていうか最後に聞くけど この曲どんなフィーリング?」だ。イヤホンの間にあるこちらの脳に直接お伺いを立ててくるのだ、KANさんが。最初の15秒しか楽曲が再生されないこのご時世に、最後まで聴いた人間だけが味わえる特別なメッセージである。私は脳内で「最高でした」と答える。モニターごしに行われるコール・アンド・レスポンスだ。楽しい。
若い女子たちであるJuice=Juiceに、この深い味わいは出せない。当たり前である。でも、おそらく楽曲はJuice=Juiceの方が売れる。こんなことを書いている私だって「Juice=Juiceがカバーするらしいから、先に聴いておこう!」と思ってこのMVを再生したのだ。カバーしていなかったら原曲の視聴には至っていなかっただろう。アンテナが低くてすみません。いやぁ、商売ってむずかしいね。
Juice=Juiceバージョン
ここまで厳密に言えばハロプロの曲ではない。どちらも壮年男性の熟練の妙技が光る楽曲ばかりだ。ここからが純粋なハロプロ楽曲の順位になります。
3位 好きって言ってよ / Juice=Juice
この曲は歌詞だ。まじで歌詞がいい。私が一番好きなパートは落ちサビで一人一人がワンフレーズずつ順番に歌唱をつなぎ、朋子のファルセットの効いた「駆け引きなしで」のあと、最後にちぎれるような口調で歌われる紗友希の「無償の愛はとうに品切れ」である。
Juiceにおいて「無償の愛」といえば、デビュー二曲目『イジワルしないで 抱きしめてよ』のサビである。6年前に「無償の愛なの抱きしめるわ」と歌っていた彼女たちの「無償の愛」は、ついにここで品切れした。佳林の無償の愛は6年かけて。そして紗友希の無償の愛も(私たちファンから見ると突然切れたように見えるけれど)おそらく実際は時間をかけてゆっくりと、すり減っていたのだろう。どちらにしろ、二人とも本当に長い間よく頑張ってくれたと思う。ありがとう。朋子だけはファンに対する無償の愛がほんの少し残っていたようで、しばらくグループに残ってくれている。
おたくたちへの「無償の愛はとうに品切れ」になった佳林(と紗友希)は、この楽曲を最後にJuice=Juiceを出て行く。グループの大きなうねりにそった歌詞でたいへんいい。百点。
先ほども書いたソロパートが繋がっていく落ちサビは、高い歌唱力による畳みかけで聴くものを圧巻する。歌唱力の暴力だ。頬にビンタを左右からくらい続けてるような、強い陶酔を感じる。すごい。千点。しかもみんな顔が抜群に可愛い。はい一万点。しかもみんなスタイルまでいいんだよ。いったいどういうことだ?ちょっとおかしいでしょ。はい十万点。しかもみんな性格もいいうえに努力家なんだよ。奇跡だね。はい百万点。
この曲は聴いているうちにどんどんポイントが加点されていき最後には天まで届くほどの高得点をたたき出す、右肩上がりの楽曲なのである。クラシックで言えばボレロ。絶頂期のフィギュアスケーターのフリー演技のように、飛ぶたびに、回るたびに、演者が何か動作をするたびにポイントがどんどん加算されていく。そんな曲はなかなかない。
4位 Va-Va-Voom / Juice=Juice
歌詞は児玉雨子さん、作曲はジャニーズの楽曲が多いShusui/JosefMelinさん。いつものハロプロ楽曲とはひと味違うメロディと編曲。大人になることも、変わっていくことも、美しくなることも、すべてを肯定し楽しんだうえで日常という名の戦いに向かっていく歌詞が好きだ。メイクして、両手首とうなじに香水をつけて、戦闘力を徐々に上げていくかのようなイントロの振付がいい。この曲の世界観を体現している。初披露の代々木体育館で落ちサビを歌いきったあとの得意げな佳林の顔がいい。朋子が苦手なフェイクを頑張っているところもいい。
ステイホーム中にアップされた瑠々ちゃんによるソロダンス。踊りきったあとの一人語りがちょっと可愛いすぎる……やばいよ……。
この曲は「ほら かかってきなさいよ」のにらみつけるような野性的な視線と挑発的な指の振付が最大の見所である。「ほらかかってきなさいよ」のために私はいつもこの曲を聴いている。挑発に乗って実際にかかっていったら、たぶんあっさりこちらが負ける。
5位 イマナンジ? / つばきファクトリー
まさに小片さんの歌。この曲の小片さんの落ちサビ最後のパート「私を見て」は2020年もっとも私の心を打ったフレーズであった。
『イマナンジ?』の落ちサビは3位で紹介した『好きって言ってよ』と同様、メンバー1人ずつが順番にフレーズをつないでいくメドレー形式である。両者を聞き比べるとグループの歌唱力の差が如実に表れてしまっている。そんな中でも小片さんの最後のパート「私を見て」の表現力は素晴らしく、落ちサビを引き締め、この楽曲の魅力を一段上に引き上げている。ちっぽけな勇気を振り絞って小さい声で必死に何かをこちらに伝えてくるような、切迫した歌い方なんだよ。これは小片さんにしかできない。儚く切ない雰囲気を出すのが抜群にうまい。
2020年私が最も萌えたのは『イマナンジ』リリースイベントのニコニコ生中継において、小片さんが目に涙を抱えながらも正面からカメラを見て少しの音程も外さずに「私を見て」と歌った瞬間であった。私は胸が締め付けられた。「あなたを見ているよ。みんなずっとあなたを見ていたよ。あなたの苦労にずっと気がつかなくてごめんね。りさまるは最高の頼れるサブリーダーだって、私たち勝手に思い込んでいた。あなたに負担をかけ過ぎていた。本当にごめんね。でも、何がたりなかったの、何がたりなかったのよ、りさまる……」と思わずにはいられなかった。
この動画の3:10から。
なぜこの曲の良さが肝心の小片さん本人には伝わらなかったのだろう。この曲は小片さんのための曲だと思う。歌詞は朝加圭一郎の名曲『Keepin’Faith』のSoflan Daichiさんである。初めてハロプロに書いた歌詞として十分な及第点であり、とてもいい仕事をしてくださっていると思う。なにより、つばきに合っている。「イマナンジ 大惨事」の駄洒落が苦手だったのかな?間奏の時計を模した振付も、この曲でしかできないアイディアだからいいと思う。
※ここから先は2020年10月当時に書いていた文章をそのまま載せます。まだ小片さんが活動停止中に書いたものです。つばきファクトリーのその後の選択を踏まえていない文章ですが、当時の感覚を残すためにあえてそのまま載せました。※
私は小片さんこそがつばきファクトリーの核だと思っていた。彼女のことが今でも大好きだ。彼女の吐露していた「愚痴」における卓越した言語能力には驚いた。もちろん、他のつばきファクトリーメンバーのことも全員好きだ。
小片さんのことはきちんとケアしてあげて欲しい。愚痴を吐くことは生きていく上で絶対に必要なことである。「内面の自由」を犯すことは誰にもできない。愚痴を取りあげられてしまった労働者は、精神を病むしか道がなくなってしまう。最悪の場合、自死を選んでしまうことだってありうる。
小片さんこそがつばきファクトリーの核であり、柱であり、御本尊であった。さらに言えば、小片さんが愚痴っていた内的独白こそが、ハロー!プロジェクトの歌詞に出てくる女子の本懐であるとさえ、私は思う。自分よりもいい待遇を受けている(ように見える)女子へのねたみ、そねみ、やっかみ、不満。でもそれを口には出せない。その鬱屈した感情が、毎日の努力の原動力になる。もっといい歌割りが欲しいから、もっといい立ち位置が欲しいから、毎日必死で努力する。外見も磨く。歌もダンスも向上を目指し、歌詞の意味や歴史も勉強する。自分一人でコツコツと表現力を高め、いつか隣の女子を追い越す。恋は止められているけれど、ほのかな憧れはじっと心の奥底に存在していて、ときにそれが奇妙な形でこっそりと吹き出す。もちろんそれは世間に隠し続ける。その姿はまさにハロー!プロジェクトの女子そのものである。これぞハロプロ、まさにハロプロ。「そのまま歌詞にしてくれ!すごいよ!すげぇいい!!」というのが、あの一連の「愚痴」を読んだ私が率直に、まっさきに抱いてしまった感情なんだよ……。本当に申し訳ない。私はダメなおたくです。
私の奇妙な高揚はさておき、小片さんのようなタイプの職人にとって「2020年秋のバラードソロで武道館に立てなかった」というたった一点だけでも、十分すぎるほどの威力を持つ懲罰になっているはずだと思う。すでに十分な懲罰が与えられていると思う。私は彼女が心配だ。
そしてもちろん、他のメンバーの心労もいかばかりかと推察する。裏で自分の悪口を言っている人間と一緒にはいられない、という感覚も非常によくわかる。私の身にこの事態が降りかかったら、「その人と物理的・心理的に十分な距離を取ること」を結論とするだろう。それもよくわかる。しかしそれは現状のつばきファクトリーという箱の死を意味する。先ほども言ったように、小片さんこそがつばきファクトリーの儚く切ない作風、あえて言葉で表現すると「クラスで一番目立つ女子の隣にいる清楚な服装の、ぱっと見は地味だけれど意識が高くて芯のある女子大生が声に出さず心に抱えている悶々とした感情」という唯一無二の作風を支えているからだ。
スタッフはさぞかし頭を抱えていることだろう。今後のつばきファクトリーがどんな選択をしても私はそれを「しかたのないこと」として受け入れる。私にはその用意がある。一番悪いのは鍵アカウントをさらした人間であることを忘れてはいけない。「鍵アカウントをさらした人間」が持っている強烈な悪意を、これ以上周囲に伝播してはいけない。いまのハロプロの現状は、不幸をこれ以上連鎖させてもいいような余裕はまったくないと私は思う。
ちなみに私は今回の一件で初めてつばきファクトリーのメンバーの人間性が見え、関係性に興味がわいた。りさまるの愚痴は『少女革命ウテナ』の高槻枝織や篠原若菜みたいで最高だし、りさまるときしもんの関係は枝織と天上ウテナみたいだし、キキちゃんが特に明確な説明もなくセンターにずーっといる感じは薔薇の花嫁っぽいし、何を奪い合っているのかよくわからないけど何かを競い合っているし、なんだかつばきファクトリーそのものが『少女革命ウテナ』の鳳学園みたいに思えてきた。ここから上手くキャラを立てて魅力的に見せることだってできるはずだ。できるはずだよ。できるはずなんだが。ほんとにできるかな。
※ここまで。いま読むとやはり抱えている感情が古いです。でも、当時の混乱を残す意味であえてそのまま載せました。その後、小片さんはグループを脱退してソロになりのびのびと活動しています。つばきファクトリーには一気に4人が増員されて立派に再生しました。
6位 アップフロントグループ テレワーク合唱「愛は勝つ」「泣いていいよ」「負けないで」 (2020/05/04) / 全グループ
この記事に書きました。アップフロントグループの皆さん、どうもありがとうございます。
番外 逆襲のYEAH!/ つぼみ大革命
つぼみ大革命さんたちのことを私は何も知らない。いまWikipedia読んできたけれど、本当に何も知らなかった。ハロープロジェクト所属アイドルではなく、よしもと所属の女性アイドルグループである。どうしてつんく♂さんがこの曲を彼女たちに提供して、どういう経緯でプロデュースすることになったのかさえ、私は知らなかった。
でも、この曲はあふれんばかりに「ハロプロ」である。ハロプロっぽい曲を考えてください、と言ってイメージする曲と言えばまさにこういう曲なのである。全盛期Berryz工房が一番イメージに近いのかな。当時『LOVEマシーン』の歌詞で没になったという「魚魚魚 家家家」という歌詞も、そのまま入っている。つんく♂さんはどうしてこういう陽気でハッピーでアッパーなアイドル楽曲をハロプロに提供してくれなくなってしまったのか、いや違うな、どうしてハロプロはつんくさんにこういう曲をオーダーしなくなったんだろう。私にはわからない。くれ。もう包み隠さず素直に書こう。この曲ハロプロにくれ。いやまじで欲しいです、ください、お願いします。
以上です。2021年は『愛して何が悪い』が確実に一位です。ごきげんよう。(文筆は2021/11/30、アップロードは2022/6/30)