先生が夜なべをして傷口縫ってくれた~♪
ねじ子の全然完璧じゃない完璧手技、今回のテーマは「縫合」です。いよいよ手技らしくなってきました。
「縫合」と一口に言っても、実に様々です。開腹した後に腹を閉じる、さけた腸を縫う、指切っちった痛いよー、それぞれ縫い方が違います。そんなのいちいち覚えていられないよね!全ての縫合術を覚えるのはわれわれひよっ子には不可能。われわれに必要なのは、とりあえずどれか一つをマスターすることです。あとはきっとそれの応用です。というわけで今回は、皆さんが当直デビューしたら必ず一度は巡り会う、簡単な皮膚縫合をやりましょう。最近はOSCIでやるところもあるようで、この間学生さんにやってもらったらマジ上手でねじ子びっくりしました。
おでこを転んでぶつけた、カッターで手首切った、自転車に引っかけたなど、皮膚の「ぱっかりわれたキズ」は、本当によく救急外来に来ます。そしてその日当 直の研修医が、おっかなびっくり縫合をしております。てへ。例え自分が皮膚科医や形成外科医じゃなくても!専門じゃなくても!です。キズが筋肉まで達して いたら整形外科のセンセイを呼んだ方が身のためですが、キズが浅かったら、その場にいる人間がちゃちゃとやってしまうのが夜の病院の現実で す。縫合が大雑把か小雑把か、下手くそか上手かは、患者さんにとってはかなりの大問題ですが、医療人にとっては『そこにいる人』が『とりあえずやらなけれ ばならない』のですな。悲しいかな。本当に「綺麗に」縫いたいとき(未婚女性の顔など)は、その場にいる一番上手いセンセイに頼むか、お近くの形成外科を 紹介しましょう。
用意するもの
大体どこの救急外来でもこんな縫合セットが用意してあります。「この漢字なんて読むの?もちはりき?」なーんて貴方は5月号を見てネ!詳しく載っているヨ!
糸の太さって…
(注意! 下の画像はねじ子の完璧手技連載当時のもので、糸の太さについて「1-0はゼロより細い」とありますがそれは間違いです。正しくは「1-0とゼロは同じ太さ」です。『ねじ子のヒミツ手技1st』や『平成医療手技図譜【手術編】』などでは訂正されています。)
綺麗にしましょう
消毒のお薬は「イソジン」が一般的。そう、あのうがい薬イソジンの消毒用です。色が茶色くて嫌~という方には、色々な透明の消毒液(オスバンだのヘ キザックだの)もありますのでそれを使いましょう。ちなみに!くれぐれもアルコール綿をキズには使わないように。めっちゃしみます。
ちなみに土砂が入っているときなどは生理食塩水で洗浄&歯ブラシでゴミ取りしないと、ゴミがキズに埋まって、入れ墨の如く色が残ってしまうので、気合いで全部取りましょう。
まずは局所麻酔を
針を何度も何度も刺す訳ですからとっても痛い。麻酔なしでやろうものなら痛くて患者さん跳ね上がってしまいます。かの有名な「1%キシロカイン」を刺しまくりましょう。
いよいよ縫合
麻酔が効いてきた頃にいよいよ縫合です。
器械結び
今回は持針器を用いた結び方を御紹介。「器械結び」です。針から糸を外さないで結ぶことができて、針や糸をケチりたいときなどに便利です。
ちなみに、多くの外科の先生が「糸結び」と言った時、それは「手結び」のことを指しています。腹腔内など、深い所などは機械だとがちゃがちゃして しまうので、糸を針から外して、手で結びます。というわけで外科医や産婦人科医や整形外科医は手結びが得意になり、逆に皮膚科医や形成外科医や眼科医は機 械結びが得意になるのですな。まぁどちらかができればとりあえずOKです。
手結びにはだいぶ慣れているけど機械結びがまったくできない貴方は「手結びは得意だけど機械結びは初めてで」と言い訳し、手結びの方法をド忘れしてしまった貴君は「機械結びにばかり慣れてしまって手結びを忘れてしまいました」とか言っておけばとりあえず格好よさげです。
前立ちで外科のオペ見学しているときなど、皮膚縫合になったらすかさず「皮膚縫合やらせてください!」とか言ってみましょう。運が良ければやらせてくれる はずです。ちなみに「さあようやっと皮膚縫合だ!出番が来た!俺にやらせてくれ!」・・・とか思ったとたんにステープラーが出てきて、ガチャガチャ留めら れちゃったりして。おじゃんなのネ。
他にもいろんな縫い方が。
もしももっと深かったら中縫いをします。
かなり大きく離れていて、強くテンションをかけて縫いたいときは、マットレス縫合をします。
ほか。
抜糸
某形成外科の先生などは抜糸に消毒はいらない!と高らかに宣言していたりもします。
今回の特集は「手術器具の名前」です。
知っているようで知らない手術器具の名前。外科のBSLでなりたくもないのに清潔にさせられ、第5助手で手術を見ている時、「学生さん、ちょっとそこのクーパー取って」とか言われたことありませんか?「くーぱーってナニ?」っ て感じですよね。「クーパー細胞なら肝臓に…」などと馬鹿なことを考えてるうちに「はさみだよ、そこの曲がりのはさみ」とイライラした外科のセンセイに怒 られてしまいました。でもでも「え、曲がりってナニ?あぁ、先が曲がってるってことか!」…ってな感じですよね。手術器具の名前が詳しく書いてある教科書 はほとんどありません。そんな授業もありません。実はオペ室ナース用の本に秀逸な物があったりするのですが。多くの医者の卵達は、器具の名前すら知らない うちに医者になり、内科研修医になった者はそんな物をまったく知らずに一生を過ごし、外科研修医になった者は、必死で実地経験だけで覚えていったのです。
というわけで勉強することすらも難しい、手術器具の名前。使用頻度の高いものからねじ子流に紹介していきましょう。
①持針器(じしんき)
針を持つためのキカイ。お裁縫の針は手で持ちますが、病院の針はキカイで持ちます。二つタイプがあり、どっちが出てくるかは病院や環境やセンセイの趣味に よります。ねじ子は「でかくて持ちにくいの」と「小さくて持ちやすいの」と呼んでおりますが正しくは まちゅー と へがーる と言うそうです。知らな かった。
<持針器ふたつ>
ねじ子は女性らしく手が小さいのでまちゅーは苦手です。ていうかキライです。
②鑷子
せっしと読みます。要するにピンセットです。先端にかぎがついてるものを有鉤鑷子(ゆうこうせっし)、ついていない平らなものを無鉤鑷子(むこうせっし)と言います。まぁ先にカギのついたピンセットとついてないピンセットです。[※イラスト中「摂子」とありますが誤植で、正しくは「鑷子」です。禊さんありがとうございます]
<鑷子つまりピンセット>
③針と糸
針にすでに糸がくっついているタイプが最近の主流です。楽ちん。 単独の針に、糸をかちっとセットするタイプも、外科でよく使います。結ぶときは針をはずして手で結びます。
<角針と丸針> <糸なしの糸の付け方>
④剪刀
正式名称は せんとう と言うそうですが、そんな言葉を使ったことはほとんどありません。「はさみ」と言った方がわかりやすいですし、現実的です。 先の太さや全体の大きさによって、形成せんとうとかくーぱーとかめいよーとかめっつぇんとか、色んな呼び名があります。まぁとりあえず「はさみ」で「曲が り」と「直(ちょく)」がある、と思っていれば十分でしょう。
<いろんなはさみ>
⑤鉗子
要するに「洗濯バサミ」のような、「つかんで離さないために」あるのものです。その種類は星の数ほどあり、すべてを把握することは手術室ナースの彼氏にでもならない限り不可能です。ねじ子にも無理。よって代表的なモノだけ三つあげます。
<ゆうこう、むこう、モスキート>
それぞれに直と曲がりがあったりしてやってられません。難しいし覚えにくいので、「カギのついてるやつ」「ついてないやつ」「小さいのがモスキート」とだけイメージしておきましょう。それ以上は、外科好き以外にはとりあえずいらないでしょう。
⑥メス
外科医が「はじめます」と言ったのち、しぱーんと皮膚や皮下脂肪などを切るときに使います。いかにも手術!という感じですネ。なんちゃって医療ドラマでもよく使われるワンシーンです。実際は始めの切開以外には、あんまし使わないんですけど。
<メスにも二種類(覚えなくて結構)>
ちなみにもっとよく使うのは電気メス。略して電メスです。切るようのモードと凝固用のモードがあります。どう違うのかは良く知らないんだけど、切る 方が出力が強いらしい。火傷させて焦がすことによってボロッと取れる(切れる)仕組みなので、傷口はあんまり綺麗とは言えません。よって、目に見える表面 の皮膚を切るのに使うのはやめましょう。電メス・凝固用モードは止血用に頻用します。
<電気メスにも二種類。バイポーラとモノポーラ>
重要なのはここまでです。これ以降はオマケ。午後5時をすぎて働く気のない大学病院オペ室ナースが器械出しについてくれなかった時、学生が器械出しを頼まれることもあるでしょう。そんな時のために。
⑦鉤
こう、と言います。「整形外科は足持ち3年、鉤持ち8年」の鉤です。フックと言った方がわかりやすいかもしれません。要するに「ひっかけてひっぱ る」ハンガーの先のようなものだと思いましょう。何を引っかけて、何を引っ張るかによって、様々な名前が付いてます。これまた星の数ほどあります。手術の 数だけあると言っても過言ではありません。
<絵。メジャーどころの鉤>
※摂子(ピンセット)のところでも、鉗子(洗濯バサミ)のところでも有鉤、無鉤と出てきてよくわからん気分になるでしょう。それはその通りで、先端にフックがついてるから「有鉤」「無鉤」と言っているのです。 「鉤」はそれ全体がフックなのですな。
⑧開創器
文字通り、切開部を開きっぱなしにしておくためのキカイです。術野の確保は安全な手術のためにとても大切。学生が触ることも、研修医が触らせてもらえることもほとんどないでしょう。トホホ。
実際の病院では、「縫合セット」「乳房切除術セット」「開腹基本セット」など、その手術においてよく使われる器械がセットになって滅菌されています。最近 流行りの内視鏡手術や腸管の自動縫合器、皮膚のホチキスみたいなスキンステープラーなど、細かいものを挙げればキリがありません。とりあえず基本的なもの だけ覚えると、オペ室実習で放置されて何もやることがない時も、暇つぶしにチラチラと清潔看護師さんの出す器械を覗いて見てれば退屈しないで済む、かもし れません。くれぐれも触っちゃって不潔にはしないようにネ!烈火の如く怒られますから。
皆さん、実技って、どこで習ってますか?邪魔者扱いされがちなBSLで、忙しくて気まぐれな研修医のセン セイが「キミキミ、留置針やってみないかい?」と言ってくれたとき?「やったーっ!!」て感じですよね。つまらないカンファや机の上でのお勉強は沢山あっ ても、実技をきちんと習うチャンスって、実はほとんどありません。ねじ子だってそうでした。今でもまだまだ下手くそだし、経験も浅いです。このページはそ んなひよっこ研修医がおくる、初歩の初歩かつ知ってるとちょっとプロっぽい小ネタ的な実技講座です。ひよっ子のくせに手技講座?おこがましい!という意見 もあるでしょう。だがしかし。ひよっ子にしかわからない、些細なことすぎて偉いセンセイ方には思いもつかない苦労というものがあるのです!!題して「ねじ子の!なんちゃってレジデントノート!!」。え?やっぱだめ?じゃあ「なんちゃって臨床研修プラクティス!」は?
さてさて記念すべき第一回は「医療面接」です。皆さんの学校もオスキーとかやってます?最近ではほとんどの学校で実施するようですね。「医療面接」という のはオスキーの中でも最も重視され、かつ話題に上がりやすい分野です。貴方の学校にも模擬患者さん来ました?怖かったですか?怒られました?やっぱり?
医療面接の礼儀というのは確かに重要です。医者として最も重要だと言っても過言ではありません。しかしなんだかオスキーの医療面接というのは妙に据 わりの悪いものがあります。なぜでしょう。なぜならそれは「お芝居」だからです!!医者でもないのに「医者のふり」。患者でもないのに「患者のふり」。学 生は初舞台だというのに、相手は百戦錬磨のプロの模擬患者さん。その上、偉い先生が学生の演技の一挙手一投足を評価しているのです。それはそれはすげぇ緊 張します。緊張しないはずがありません。
困ったときのガイドライン。オスキーの一般的な採点基準も実は、ガイドラインに詳しく載っています。それを見てもわかるように、診断ができる必要は 全く!ありません。あまつさえ「どこまで現病歴が聞けたか?」すらも大して重要ではありません。最も重要なのは「サービス業としての態度」です。挨拶だの アイコンタクトだの専門用語を使わないだの。お客様に礼儀を失さないようにと いう新入社員の社員研修と同様のものだと考えましょう。バイトで客商売をやっていたり、体育会系の部活の人などは、逆にそんなことは習わなくても知ってい たりします。そういう人には、オスキーの医療面接はあまり意味がありません。出来る人は出来るのです。逆に、それが出来ない人にある程度の失礼でない対人関係を身につけさせるために必要な儀式でもあります。
本気で丁寧語を使えない奴や、初対面の人にいきなり家族歴を聞いてしまう順序のなっていないヤツも、学生の中には確かに存在するのです。皆さんも一人や二 人、同級生の顔が思い浮かぶでしょう。そういう人もある程度「真っ当な」医者にするための、ひとつの大切な行事なのです。必要以上に形式張ったことを言わ れたり、過剰だと思うほどの服装や髪の色へのツッコミも御愛敬です。あきらめましょう。
ちなみにねじ子はマ●ドナルドでバイトしていた際に、接客業は死ぬときまで笑顔でというホステス的客商売根性をたたき込まれました。しかし恐ろしいことにそんなねじ子ですらも、忙しい時、真夜中の急患、能力を超えた仕事量でテンパってる時な ど、その気高くて清い「初心」を忘れてしまうのです。「それどころじゃねぇんだよ畜生」と思ってしまうのです。きっと医者として忙しくなればなるほど、偉 くなればなるほど、忘れていってしまいうのでしょう。現実の外来で、患者さんにはじめに自分の名を名乗る医者に会ったことありますか?……ほとんどないで しょう。
はっきりいって実際の臨床で「胸が痛い」って言われたら、とりあえず有無を言わさず胸ひんむいて心電図をとります。心筋梗塞だったら一刻を争うわけであり、のんびりと患者さんが心を開くまで打ち解けている場合ではありません。現実なんて、そんなもんです。でもそれは、ポイントを知っている人が敢えて無視しているだ けのこと。オスキーは「初心者のための儀式」です。普通自動車免許の仮免許試験と同じです。大げさに後ろを振り向いて、後方を確認している「ふりをする」 ことが必要なのです。たとえきちんと後ろを見ていなくても、振り向いたことをアピールすることが必要なのです。教習所で習った大げさな安全確認が、実は実 践でも非常に役立つ儀式であるように、オスキーで習った現病歴聴取の仕方も実は、現場でも非常に使えるテクニックです。馬鹿馬鹿しいと思っても、真面目に 演技しましょう。それが貴方の身になります。
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