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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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完璧手技第9回 点滴

「とりあえず点滴しましょうね~。ポカリスエットみたいなものですけどね~。」とりあえずって何?

今回は初心に帰って点滴の巻です。脱水の時、絶食の時、大量出血の時、なんだか知らないけど患者さんが突然ショックになった時、二日酔いの時、とにかく体に水分やお薬を素早く入れたい時。昔は口から水を飲ませること・薬を飲ませることしかできませんでした。しかし人類は、静脈に何らかのかたちでアプローチし、重力を利用して砂糖水や塩水や様々なお薬を入れるという秘技を編み出したのです。その効能は果てしなく、全身に与える効果のスピードも速く、今や何はなくても「とりあえず点滴しましょうね~」と、点滴につながれてあらずば入院患者にあらずという雰囲気で患者さん全員がカラカラとソリタT3を連れて廊下を歩く姿を見ていると、いささか無駄に多用されている感まであります。

俗に「静脈路確保」「ライン取る」「ラインキープ」などの用語で呼ばれる手技です。

ラインを取る針には2種類あります。

翼状針

よくじょうしんと読みます。ワープロで打つと大抵「欲情心」と変換されるのでそのたびにげんなりできます。

メリット:
・一日一回きりくらいしか入れない薬剤などの投与の時はこれで十分。
・安い。
・手技が比較的簡単。ただし慣れという説もある。
デメリット:
・1日何回も点滴しなくちゃいけないときなどは、刺す度に痛い
・とがった針が体に付いている状態なので、動けない、肘を曲げられない、トイレに行けない
・固定する角度によって点滴が落ちにくくなりやすい

留置針

俗に言うサーフロー。
メリット:
・一回入れば、詰まるまでかなり長く使える。痛くもなく、何回でも使える
・ヘパロックしてとっておける
・針が残っていないので、動いても安全
デメリット: ・正直、あまりない。
・ずっとつながれていてうざい、という人もいる。

※ヘパロックとは ヘパリン加生理食塩水を10mlくらいフラッシュして、三方活栓の部分で蓋をして、留置針~延長チューブの部分を取っておくこと。夜寝るときなど、寝返りがうてて患者さんは楽。

静脈ラインをキープすることは、1年目研修医の主たる仕事です。お互いを練習台にして留置針を刺しあう研修医の姿が、5月頃どの 病院でも見られます。初めは全く!!入らないものです。ねじ子も何度も患者さんの血管を破り、もらし、血腫を作りまくっていました。とにかく数をこなしま しょう。山ほど失敗して、上手くなってゆくものです、きっと。

完璧手技第8回 尿道バルーン

全国の男性医学生諸君、お待たせしました!今回はついにエロネタ全開!尿道バルーンです。そう、尿道から膀胱へ管を突っ込む行為です。とりあえず男女とも に陰部を見なければお話になりません。恥ずかしがり屋さんには困っちゃう手技です。しかしどんな淑女な女医さんであっても、10本も入れれば恥ずかしいなどという気持ちは露ほどもなくなってゆくんだから、アラ不思議。皆さんも急性アル中で自分の病院に運ばれた時は、知り合いにバルーン入れられないように気を付けようネ!医者たるもの、いざとなったらバルーンくらい自分で入れるくらいの根性が必要だよネ!

これが男子だ!

まずは男子から。男の尿道は長い!陰茎がある分、長い!14cmくらいあります。

男の尿道において最大の難関、それは前立腺です。特に中年男性は、それまでするするとカテーテルが進んでいても、引っかかって先に進まないことが多々あります。それが前立腺です。前立腺を越えることが、男子尿道バルーンの全てと言っても過言ではありません。

これが女子だ!

実は女性器に関しては、女性の方が疎かったりします。男性の方がいっぱい見ていたりしますから。恥ずかしがり屋のお嬢さんも、まじめな女学生さんも、少なくとも膣と尿道の違いくらいは、わかっておきましょう。 真面目な男子諸君も然り。成年男子たるもの、無修正画像くらい見ておけ。(暴言)

しかし、敢えて言いましょう!女子、しかも医学生たるもの、己の女性器ぐらい、見ておけ!!と。少なくとも膣と尿道の違いくらい、わかっておきましょう。 確かにデリケートな問題です。しかし、敢えて言いましょう!鏡を使ってでも、見ておけと。男子諸君も然り。成年男子たるもの、無修正画像くらい見ないでど うする!見とけ!!…我ながら暴言ですすみません。

完璧手技第7回 胃管挿入&胃洗浄

今回のテーマは胃管挿入と胃洗浄。よーするに鼻または口から、胃までの管を入れることです。毒をいっぱい 食べちゃった人・吐血した人・経口でものが食べられない人の栄養補給など、様々な用途で使われます。今回はその中でも大量服薬したときに行う胃洗浄につい て御紹介します。

国試には毎回とってもマニアックな「これ飲んだ時どうする」問題が出ますネ。解けませんネ。はっきり言いましょう。臨床においては解けなくていい んです!!個々のケースはとても覚えきられるもんじゃありません。困ったときは中毒の本を調べるか中毒センターにお電話しましょう。救急外来には、自殺目 的で色々なものを飲んだ猛者たちが現れます。洗剤・大量の薬剤・漂白剤・農薬・絵の具・体温計の水銀まで。「これ、飲んだら体に悪いだろうなぁ」と思うご 家庭の中のモノは、大抵において大丈夫です。精神科系の薬剤の多くは致死量は5万錠いっぺんに内服だったりしますし。実は、誤飲しても何の処置も必要ない 事がほとんどだったりします。

意識のある患者さんにとって、胃管挿入はまさに鼻の中に蛇を突っ込まれるようなもの。苦しいです。でも、麻酔をすると意識レベルが落ちます。ただでさえ睡眠薬の大量服薬だったりする患者さんの意識レベルをこれ以上下げたくはありません。肺への誤嚥の危険も増えるし。というわけで、たとえ苦しくてもそのまま胃洗浄するのが現状となります。

 

これが胃管だ!

何事も、まず、下準備から

胃管挿入

意識のある人で失敗することは、ほとんどありません。でもでも。意識のない人は非常に入りにくい。麻酔下の挿管された人や、意識の全くない薬中など。これはひとえに「ごっくん」ができないからです。

胃洗浄

さらに大量のオクスリやら農薬やらの「毒」を飲んでいるときは、それらが吸収されないようにするため、

①活性炭 → 胃の中に残っている毒を吸収してくれる(炊飯器に活性炭入れて炊くとおいしくなるのと基本的には同じ原理。)
②下剤 → 胃よりも進んでしまった毒を、吸収される前にさっさと下してくれる

の二つのカクテルジュースを入れます。真っ黒でジャリジャリしてすげぇマズいです。口から飲める人には飲んでもらってもいいのですが、ま、大抵の人は無理なので、胃管から入れます。

※ 催吐 について

国試において、催吐と言えば「意識障害時は禁忌」だの「強アルカリと強酸となんかとなんかが禁忌…あぁ思いだせん」だの皆様途方に暮れているでしょ うが、実際には、ねじ子、やったことありません!!誤飲の際、ご家庭では最もやる方法でしょうが(ねじ子も幼少のみぎりに漂白剤を誤飲し、母親にやられま した)病院ではあまりやらないのが実情です。その原因は

①日本には催吐剤が発売されていない
②よって舌圧子突っ込んだり非常に原始的で乱暴な方法しなくちゃいけない
③禁忌が多くて怖いし、禁忌じゃないときは、むしろ胃洗浄の方が効果的
④ご自宅でやっている
⑤そしてご自宅で吐けない時に病院に来る

などでしょうか。