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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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会場推しとハロプロ新春おみくじ

ハロヲタの初詣といえば中野サンプラザ新春恒例のハロープロジェクトコンサート、略称「冬のハロコン」です。毎年1月2日の中野サンプラザから始まり、全国を巡業してまた2月に中野へ帰ってきます。ハロヲタの初詣といえば中野サンプラザなのです。

私はハロコンのチケットを取っていませんでした。COVID-19の流行がどうなるかさっぱりわからない情況の中、チケットを予約することができなかったのです。

三賀日のたまたま空いた日に、私はひとり中野サンプラザへ向かいました。チケットもないのに。いわゆる「会場推し」です。チケットを持っていないからコンサートに入れないのに、会場前に行くことをハロヲタは「会場推し」と呼びます。雰囲気を味わうため、オタクに会うためだけに行くのです。COVID-19流行によって世界中の医療従事者が抱える孤独と分断を癒やすために、私はかつての仲間であるハロヲタの姿をひとめ見たかったのです。知り合いもおらず誰の名前も知らないのに(私は孤独なおたくです)みんなに会いたかった。ハロヲタの熱気と会場の雰囲気を久しぶりにこの身に浴びたかった。「私の帰る場所はなくなってなどいない」「私には帰れる場所があるんだ」と、ただ思いたかったのかもしれません。それは「新春ハロプロ詣」というよりも、「ハロヲタ詣」とよぶべき衝動でした。

オミクロン株の感染力の高さにあわせて、2022年1月に入ってから東京都の新型コロナウィルス感染者数はぐんぐんと伸び始めていました。「ハロコンは2月の中野サンプラザ凱旋に行けばいっか」と思っていましたが、それでは遅そうです。このままではもう2月までもたなそうだ。2月にはもう感染が拡大してコンサートが開催できない、または開催されたとしても私が参加することはできないだろう。そう判断した私は、1月某日、ハロコンの当日券販売に並ぶことに決めました。

当日券は抽選販売です。「ハロプロ新春おみくじ」ともよばれます。今年の冬のハロコンの倍率は「毎回150人程度並んで、10人程度が当たる」くらいでした。当選確率は1/10~1/20といったところでしょうか。

「ハロプロ新春おみくじ」はこういった仕組みになっています。
・定時に並んだ人数分の竹串が用意されて、小さい筒に入れられます。
・並んだ順番に前の人から、その竹串を引いていきます。
・当たりくじの先には赤い印がついています(これは毎回変わり、当たりが青だったり、当たりが無色で外れくじに赤や青が着色されていることもあります)。

当選確率1/10~1/20ですから、これは「外れて当たり前」です。寒空の中ひとりで中野サンプラザまで行くこと、じっと当日券販売開始の掛け声を待つこと、そのために家でしっかり防寒対策をとってくること、ソーシャル・ディスタンスを取って並びつづけること、前公演が終わって会場から出てくるオタクたちの満足そうな笑顔をながめること、彼らの高揚を感じること。これらすべてがいわゆる「前戯」であり、ハロコンという「お祭り」の一部です。ディズニーランドのアトラクションの行列に並びながらポップコーンを食べている時間や、サッカースタジアムへ続くさわがしい徒歩の道のり、競馬場でテイクアウト・フードを片手にパドックをまわる馬をながめている時間と同じです。それらの過程をふくめてイベントであり「お祭り」なのです。私の正月ハロコンはすでに始まっています。たとえチケットが当たらず、このまま中野ブロードウェイに寄ってフィギュアを一通りながめたあと、家へ帰ることになっても。

私のくじの順番が来ました。あまりの寒さにふるえる手で、私は竹串をいっぽん抜きました。竹串の先端には、赤い色が付いていました。その意味がわからずぽかんとしていた私に、係員さんが大きな声で「おめでとうございます!」と声をかけてくれます。私の後ろで行列していたオタクの皆さんの拍手の音を聞いて、私は初めて自分がチケットに当選したとわかりました。

ハロコンの当日券抽選に並んでいるオタクたちは、数少ないチケットを奪い合うライバルです。それなのに、彼らは自分より前で当たりが出ると、その当選を祝って拍手をするのです。当たりはどんどん減っていくのに、当選した見知らぬオタクへ「おめでとう」の拍手をするのです。古き良きハロヲタの素晴らしさがよくあらわれた光景だと思います。私の心は正月から喜びに満たされ、感動的な出来事となりました。ザッツオールライト。Wow Wow,Wow Wow,Wow Wow,PEACE,PEACE。Wow Wow,Wow Wow,Wow Wow,YeahYeahYeah !

嬉しさのあまりそこらへんの石のベンチで撮った記念写真↑

まさに公演名のとおり、LOVE&PEACEです。これから私が入るのはPEACE公演。公演のテーマ曲は『ザ・ピ~ス!』。まさにその通りです。ハロプロもハロヲタも素晴らしく、世界は平和で愛に満ちている。さっきまで私は、私を取り巻く世界がオミクロン株に侵食されはじめている現状にひたすら絶望していたのに。いまは世界が愛と平和に満ちている!そう思える瞬間でした。神様、仏様、わたしにハロコンを見せてくださってありがとうございます。

ハロプロの「現場」に入ることができたのは、Ballad武道館公演以来1年半ぶりでした。
かなとももさゆきもまーちゃんも卒業してしまったので、今の私はこの手でゆらすペンライトの色がありません。通俗的な言葉でいえば「推しメン」がいない状況です。ハロメン全員が出てくる場面において、ペンライトを何色にしたらいいのか、自分でもわからないのです。私のキングブレードはズッキがいる間は緑、桃子がいる間はピンク、そしてその後はずっと朋子のりんご色に輝いていました。その色を選ぶことに、なんの迷いもありませんでした。でも今はそうではない。こんなにフラットな気持ちでハロプロを見るのはひさしぶりのことです。

1月9日PEACE公演のベストアクトは『ジェラシージェラシー』の上國料萌衣ちゃんと『背伸び』の北原ももちゃんでした。かみこはただでさえ歌がうまかったのに、さらに歌唱力が上がってる!そしてなんといっても!表現力が!抜群に上がってるよ!『ジェラシージェラシー』がぴったり合っていて、本当にめっちゃジェラシー持ってそうな感じがした。かみこの歌からヒリつくような強い情念を感じたのは初めてだった。すごかった。かみこの圧倒的表現力に敬意を表して、その後はずっとペンライトをかみこのアクアブルーにしましたよ。楽しかった。2022年のハロプロは私にとって一推しを探す行程の旅になりそうです。(2022/01/15)

追記:結局オミクロン株の蔓延による第6波によって緊急事態宣言が発動し、2022年2月の中野サンプラザ凱旋公演は中止になった。予想通り。誰も悪くない、悪いのはウィルス。悪いのはウィルスだけ。