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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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おたく活動備忘録 : 佐藤優樹卒業公演をライブビューイングで見た

佐藤優樹ちゃんの卒業公演へ行った。武道館はもとより、映画館のライブビューイングですらチケットがぜんぜん取れなかった。ようやく買えたのは、練馬区大泉の駅から遠く離れた映画館であった。わざわざ行った。遠かった。映画館で一番大きいスクリーンが使われていたが、それでも会場は満席だった。

まず、モーニング娘。の単独コンサート自体がとってもひさびさだ。2020年の新型コロナウィルス流行以来、ハロプロで定期的に開催される公演はハロコンだけになってしまった。正確に言うと、5つのグループをシャッフルして4つに分け、入れ替わりで公演するコンサート(花鳥風月)だけになった。グループごとの単独コンサートが行われるのは、誰かが卒業するときのみ。もちろんそれは大人気公演になり、チケットは争奪戦になる。ハロプロ一番人気のまーちゃんの卒業コンサートともなれば、チケットが取れるはずもない。武道館では狭すぎる。

モーニング娘。の単独コンサートはファンタスティックで魔法のような音楽体験を私にくれる。この高揚は他では得られない。ファンのコールなしでも、ぜんぜん退屈しなかった。

セットリストは新しいアルバム「16th~That’s J-POP~」中心でよかった。『愛してナンが悪い!?』と『このまま』が聴けてよかった。そもそも新アルバムが出てから、モーニング娘。が単独公演をするのもこれが初めてなのだ。ライブで聴くとどの曲も新鮮に生まれ変わる。生歌と表情とダンスがステージにはえて、別物になるのだ。シングル先行曲の『よしよししてほしいの』はやはり最高であったし、『ビートの惑星』も単純明快で楽しかった。

私の脳と体は映画館を出たあとも16ビートに細かく揺さぶられている。これはおそらく今日の夜、ベッドに入ってからも続く。

これは私の主食だ。

私はモーニングの単独コンサートが開催されなかったこの二年、いったい何を食べて生きてきたんだろう?本気でわからない。ひょっとしたら死んでいたのかもしれない。

モーニング娘。はつんく♂さんという最高の農家が腕によりをかけて作ってくれている白米だ。またはつんく♂さんという最高の料理人が出してくれる最高のディナー。実際のモーニング娘。の名前の由来は喫茶店のモーニングセットであり、トーストとコーヒーとサラダとゆで卵が食べられて、みんなが気軽に親しめるお得な朝食なんだけど、私にとっては最高のごちそう。一番のメインディッシュだ。

私はいま混乱している。足に力が入らない。こんな経験はズッキ卒業公演以来だ。あのときも私は武道館の席からしばらく立ちあがれず、周囲の見知らぬオタクに心配そうにのぞき込まれながらも席で長いことうずくまっていた。2021年のいまの私は、映画館のロビーにすわってただただぼーっとしている。これから一人で暗い夜道を歩いて帰らなければいけないのに。

今日はモーニング娘。’14のペンライトを持ってきた。今日で何かと決別するつもりだった。’14の楽しかった思い出が、今日で終わる気がしていた。あの夢のような時間がひと段落する気がしていたのだ。

まーちゃんは’14の末っ子だった。実際はどぅーの方が年下で、さくらの方が加入は後だったけれど、まーちゃんは確実にカラフル期のモーニング娘。の末っ子だった。そして誰よりも早い速度で、毎日のように、みるみる成長した。パートがどんどん増えていった。あの頃から娘。を見ている人ならば、この感覚をわかってくれるだろう。

まーちゃんは私の娘だ。私が産んだ。そのくらいの気持ちでいたんだよ、わたしは!気持ちが悪いことに!卒業の日までどうしてそれに気が付かなかったんだろう?柳原可奈子さんは2014年当時から「私がまーちゃんを産みたかった」と宣言していたというのに!

私の娘がいま巣立つ。巣立つことを自ら選んだ。病気ゆえもあるだろう、コロナ禍ゆえもあるだろう。口惜しい。でも旅立ちを祝福したい。楽しかった’14がこれで終わる。心が千々に乱れている。どうしていいかわからない。わからないから私は、ロビーで食べきれなかったポップコーンと烏龍茶を口につめこみながらこの文章を書いている。心の中の混濁を吐き出して、いったん落ち着いてから帰ることにする。

映画館のライブビューイングのいいところは、こういったときに決してせき立てられたりせず、ゆっくり心を落ち着かせてから帰れることだと思う。(2021/12/13文筆、2023/9/18投稿)