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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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2019年ねじ子の楽曲ランキング(前編)

※この文章はCOVID-19流行前の2020年2月末までにほぼ9割を書いています。文章がまとっている時代の空気が明らかに現在と違いますが、2019年のランキングなので、あえてそのままにしています。

1位 戦闘!ジムリーダー / ポケットモンスターソード・シールド

2019年11月に発売されたポケモン完全新作ゲーム『ポケットモンスター ソード・シールド』は本当に素晴らしい。ポケモン文化は今まさに世界中で美しく花開いている。

新作の舞台はイギリスだ。「イギリスという歴史ある国にどうアプローチするんだ?」という問いの答えは、サッカーとロックンロールであった。なるほど。「サッカーをどうやってポケモンに?」という問いへの答えは「観客」と「スタジアム」である。ポケモンバトルが欧州プロサッカーリーグのような一大興行になっているのだ。巨大スタジアムに大量の観客を入れて中継込みでバトルをする。たくさんの観客が観戦して盛り上がる。すげぇ!楽しい!

最も盛り上がるジムリーダーとの戦いは、サッカーのスタジアムを模した巨大な会場で行われる。主人公はユニフォームを着てピッチに向かい歩いて行く。スタジアムを大勢の観客が埋めている。観客はポケモンを倒すごとに、技が決まるごとに、そして技を外すたびに!おおいに盛り上がり歓声を上げる。

この曲は、イントロ→通常時→優勢/劣勢→最後の一匹と、戦況に応じて複数のフレーズが切り替わっていくのが最大の特徴だ。ポケモンが次々に倒れいよいよ最後の一匹になると、リズム隊だけが残ったBGMの上に観客の大合唱とエールが加わり、楽曲が一気に盛り上がっていく。ジムリーダーの最後の口上とともにピッチに投げ込まれたポケモンが巨大化する。キョダイマックスだ。この曲の素晴らしさと相まって気分が最高に高揚する瞬間である。

ゲーム発売前のCMでキョダイマックスを見たとき、私は「最後の一匹で巨大化って、スーパー戦隊かよ!」と不覚にも思ってしまった。何なら今でもキョダイマックスするたびに「産ー業ー革ー命ー!」とか「二の目があるぞー」とか「サンキューナリアァ!」って口に出してしまうときはある。そんな私の思慮の浅さに反して、キョダイマックスはとても魅力的だ。ゲームバランス的にも――強すぎず便利すぎず乱用しにくく――ちょうどいい。キョダイマックスポケモンの見た目の変化と、エフェクトの派手さも楽しい。盛り上がるね。

2位 メジャーボーイ / CUBERS


『ラジオ音源「青春night」超絶神曲のお知らせ』というスレッドでこの曲に出会った。もちろん、「青春nightいい曲だな」と思いながらスレッドを開いたのだ。

なんだよ、『メジャーボーイ』めっちゃいい曲じゃないか!!!つんく♂さん2019年度最高の名作だ。私の求めるつんく♂が詰まってる。なんでこの曲が娘。じゃないんだ!なんでこの曲がJuice=Juiceじゃないんだ!悔しい。これが嫉妬という感情か!うわーん!!!!

この曲に寄せたつんく♂さんのコメントも、くやしいほどの名文であった。

「やっちまった感というより、やらされちゃった感。
俺も時にプロデューサーでアーティストの才能を拡張させる立場。時に一作家。マネージャーの熱い情熱が作家の引き出しをこじ開け良い意味暴発させららることもあるんよね。シャ乱Q時代の和田マネがそうやったな。これ手応え!」

これを読んだ私はすべてを納得した。そうか。この曲がそんな経緯で作られたのならば、私の考えは完全に的はずれである。私はとんだかんちがいをしていた。CUBERSとCUBERSのスタッフにしか、この曲は引き出せなかった。だからこの曲は当然CUBERSに与えられるべきものであり、絶対に他の人間が掠め取ってはならない。「この曲をハロプロに」なんていう私の思惑はとんだ的外れであった。

だとしたら、今のハロプロはつんくさんの「引き出し」をこじ開ける装置としてあまり機能していないのかもしれない。是非もなし。

3位 Shanti Shanti Shanti/ BABYMETAL

RIHO-METAL version

鞘師METAL、わたしは大歓迎です。小学生だったアクターズスクール広島時代から続く鞘師とすぅちゃんの歴史がいまだ続いていることに、私は歓喜の涙を流しています。世界中のメイトのみなさん、鞘師をよろしくおねがいいたします。

Purfumeを排出したアクターズスクール広島のほぼ同期でライバルだった鞘師とすぅちゃん。歌の中元、ダンスの鞘師と言われた両雄。モーニング娘。が好きだった鞘師は娘。オーデに合格し、すぅちゃんは順当にPurfumeの後輩になって可憐Girl’sになりさくら学院重音部になりBABYMETALになり、アイドルメタルでブレイクした。

いろいろあって鞘師は娘。を辞めソロパフォーマーになることを選んだ。いろいろあってBABYMETALからは重要なダンサーであるゆいちゃんが抜けた。広島の小学生だった二人が、大人になった今お互いのピンチに助け合い、協力し、Glastonburyの何万人もの観客の前でステージに立つ。こんなに盛り上がる物語が他にあるだろうか。鞘師にとってもすぅちゃんにとってもwin-winだ。私はこれを仕掛けてくれた全ての大人たちに感謝している。

とち狂って「最愛ちゃんと鞘師が『4の歌』を歌う日が来る!?鞘師にまた赤いサイリウムを振れる日が来るの!!?ふあー!!」と私は一瞬いきり立ったのだけれど、ベビメタってもう、そういうんじゃなかった……。そうか、そうだった……。ごめん……。私、まったく時代についていけてない。不勉強だわ。私の中のベビメタは今でもなお「さくら学院重音部」なのだ。しかも当時ですら私は、「さくら学院ならバトン部Twinklestarsでしょ!」っていうアイドル文脈大好きっ子だったのだ。(2011年俺コン参照) そんな調子だから「BABYMETAL3人目のサポートダンサーは姉METALことひめたんか、武藤会長で決まりでしょ!」とか思ってしまうのだ。まぁ、違いますよね。そりゃそうか。

BABAYMETALの握手会がない/ファン接触がない/ブログもSNSもない/写真集もない/歌のパート割もない/セクハラまみれのラジオもない/余分なMCもない環境は、ただただステージで自己を表現したい職人タイプの鞘師には向いていると思う。

サポートメンバーとして何の告知もなく、サプライズで横浜アリーナのステージに初登場するというやり方も、私は「ちょうどいい」采配だと思った。ハロプロファンとゆいちゃんファン両方の気持ちに目を配った名判断と感じた。

ハロヲタは結局のところ実力至上主義者なのでステージを見ないと納得しない。そして圧巻のステージを見れば、全ての言葉を飲み込んで幸せの微笑みを浮かべる。近年のハロヲタは「少女を消費しない」ことに敏感なので、鞘師がいきなり正規メンバーになっていたら、それはそれでYUIMETALの脱退とそれにまつわる職業選択の自由の有無、未成年の酷使(これはハロプロもそう)とメンタルケア(これはハロプロもそう)、プライベート露出に強い制約があることへの困惑、公式アナウンスが少ないことの不満がハロヲタの間で議論になったと思う。

その一方で、ゆいちゃんのファンや三姫体制を愛するメイトの皆さんも、ゆいちゃんにかわる新メンバーとして突然誰かが固定されたら、たとえそれが誰であっても拒否反応が出ていただろう。

ゆいちゃんがアメリカツアーに現れなかったとき私は打ちひしがれた。ゆいちゃんの不在について公式から長い間説明がなかったことにも失望していた。#whereisyuiタグを検索しながらゆいちゃんの絵を描くことくらいしかできなかった。私はハロプロ育ちなので、あまりの情報の少なさに耐えられなかった。それがベビメタという箱の特徴だとわかっていても。

ゆいちゃんのいなくなったベビメタはしばらくすぅもあ2人+複数の大人の女性バックダンサー体制で展開した。通称「ダークサイド」だ。ダンサーの一人である仮面ライダーマリカこと佃井さんのことを私は大好きだったし、彼女は素晴らしい仕事をしていたけれど、それでも私はダークサイドを楽しむことができなかった。三姫体制の「カワイイメタル」をまた楽しむことができたという意味でも、私は鞘師のアベンチャーズ加入に歓喜している。

なにより”Shanti”から始まる新曲がすっごくいい。この曲の素晴らしさで私はなにもかもを歓迎した。詩吟とインド歌謡を混ぜたような曲調も、すぅちゃんの歌声も、二人のダンスも素晴らしい。曼荼羅の中央に三姫が映るバックモニターの映像も素晴らしい。独特の中毒性がある。

この曲を踊る鞘師が見られるのなら私はどこへだって行くのだけど、アベンチャーズか誰なのか幕が上がるまでわからないの!?海外だったら鞘師の可能性が高いのか?えええああぁぁぁぁぁううううぅぅううまじでか……。

4位 メテオ / ピンクレディー


『妖怪ウォッチ』2019年冬映画の主題歌です。妖怪ウォッチの映画、毎年上映してるんですよ。もう6年目です。皆さん知ってました?冬休みにあわせてやってます。今年は、妖怪を擬人化した上に学園ものです。二次創作界隈でもよく見る定番ですね。ちなみに昨年は60年代もの、一昨年は鬼太郎コラボ、その前は8割実写でした。

『妖怪』のコレクションアイテムって、もうメダルじゃないんですよ。アークっていう別のおもちゃなんです。メダルとの互換性は、なし。当然なし。レベルファイブはいつもそう。せっかく作ったコンテンツを長く続けるつもりがないんです。おもちゃだってあっという間に使い捨て。過去作のポケモンをどこまでも連れてこられるよう、できる限りの手を尽くすゲームフリークとは企業姿勢がまるで違います。

ちなみにコロコロの『妖怪ウォッチ』漫画の中には、「メダルをアークに買えてくれるお店」があります。現実でもそんな店があったらいいのに!漫画の方がずっとずっと子ども達のことわかってるよ!!!!!現実のレベルファイブとバンダイは、『妖怪』も『妖怪』のおもちゃもあっという間に「過去」ってことに決めつけて、勝手に投げ捨ててしまうのです。

そんな私のイライラに反して『妖怪ウォッチ』アニメの楽曲は毎回非常に打率が高く、私の心にしょっちゅうクリーンヒットします。この曲は、ニコニコ動画で人気だったプロデューサーが熱心にピンクレディーへオファーして実現した曲とのこと。若い音楽家がピンクレディーの歌声に惚れ、時を経て自分の曲を歌ってもらう夢がかなう。素晴らしいですね。過去映像や過去曲にYoutubeでふれやすくなった世界の恩恵です。

5位 限界突破×サバイバー / 氷川きよし

まず、ドラゴンボールのタイアップ曲として完璧。
第二に、歌が上手すぎる。
第三に――これがもっとも重要なことだが――この曲のタイミングで、彼は衣装や演出を意図的に変化させ、長い間封印していた側面を全面に押し出してきた。楽曲の方向性と、本人の自意識の変化のタイミングが奇跡的にぴったり合った。必然とも思えるような奇跡のタイミングである。彼が彼らしく生きている姿は本当に素晴らしい。まさに限界を突破したサバイバーである。私も元気が出る。「私もまだ変われる、頑張りたい」と素直に思う。「おばあちゃんたちのアイドルをやりきっているプロの演歌歌手」という認識だった氷川きよしさんが、私という個人にとって「励まされる存在」に変化した。全王様もオッタマゲ~である。私も己の限界を突破してサバイブしたい。

(2020/8/12)

 

(後編へ続く)