「とても勝てない……」
2019年6月、TVアニメ『シンカリオン』の放送が予兆もなく突然終わった。4月から2期の放送が始まったばかりだというのに、驚いた。その2ヶ月後の夏休み、我が家に大量のシンカリオンが入庫した。「もうシンカリオンは誰かにあげちゃっていい」「空いたスペースに新しいおもちゃが欲しい」というお子様のおうちから大量に譲り受けたのだ。昨年販売されたシンカリオンがこれでほぼ全種揃った。私たちは昨年ルパパトとビルドとジオウのおもちゃに夢中になりすぎて、シンカリオンをそれほど買っていなかったのだ。具体的に言うと主役4人のマシンしか買ってなかった。
合体パーツが多い6000円以上もするシンカリオンを、私はそこで初めて手にした。シンカリオンドクターイエロー、ブラックシンカリオン、500系こだま、そしてシンカリオントリニティだ。どれ一つとっても、おもちゃとして素晴らしい出来である。このうちの一つでも2019年の発売であれば、今年のおもちゃ大賞はDXキシリュウオースリーナイツセットではなくシンカリオンシリーズが取っていたのではないかと感じる※1。それくらいどれも独創的でかっこいい。組み立て方法は革新的であり、変形は大胆で複雑。かつ子供にもじゅうぶんできる形状。デザインもかっこいい。何より一箱で完結する。この手の合体ロボおもちゃにしては、安い。プラレールとしても自走する。これはすごい。大人の私でもわくわくする。変形しながら私は思わず感嘆の声を上げてしまった。

特にブラックシンカリオンの自由度とジョイント構造は、今年の戦隊合体ロボであるキシリューオーに強く影響を与えていると私は思う。キシリューオーの「竜装ジョイント」は、ブラックシンカリオンの黄色い羽パーツを自由に刺せるギミックと同じアイディアだ。ブラックシンカリオンは1つ穴で、竜装ジョイントは4つ穴という違いはあるけれど。
私は下を向いてブラックシンカリオンをかちゃかちゃといじりながら、「とても勝てない……。こんなのとても勝てないよ……」とつぶやいてしまった。心根から出た気持ちだった。私にシンカリオンをくれた5歳の少年の耳にそのつぶやきは拾われてしまい、「えっ?なにが?ブラックシンカリオンは強いよ?」と不思議がられてしまった。「あ、いや、勝てるよね、強いよね!ドクターイエローもブラックシンカリオンも強い!」と笑ってごまかした。
こんないい商品に、ルパパトの玩具はとても勝てない。デザインも、プレイバリューの高さも、可動の多さも、盛り込まれた変形ギミックの数も、アイディアの量も、値段も、売り方のわかりやすさも、映像とのマーチャンダイジングの上手さも、何もかも上をいっている。完全に負けた。完敗だ。ブラックシンカリオンもシンカリオンドクターイエローも500系こだまもシンカリオントリニティも、どれもこれも本当によくできているよ!
そして、そんなよくできたおもちゃであるシンカリオンでさえも適齢期の少年には簡単に飽きられ、たった半年で手放されてしまう。なんたる非情。私は現実に打ちのめされた。これが子供だ。興味がどんどん新しいことに移っていく、それが子供達の日常であり健全な成長なのだ。去年終わった戦隊のことをいまだ引きずってグズグズ泣きながら長文を書いているのは、大人でありおたくである私一人なのだ。圧倒的な現実の残酷さに私は打ちのめされている。そして里子に出された先である我が家のおもちゃ箱でも、シンカリオンの出番はそれほど多くない。息子たちはすでに、さっそく手に入れた飛電ゼロワンドライバーとエイムズショットライザーに夢中である。それでこそ子供だ。
それでも私は、少し壊れた状態でやってきたシンカリオンドクターイエローを修理するために、夜中一人でyoutubeの玩具レビュー動画を見ながらプラスドライバーを握っている。ドクターイエローの構造はむずかしく、いまだに立ちポーズの作り方すらよくわからない。でも私にこれをくれた小学生と保育園児は、完璧に組み立てて完璧に元に戻していたなぁ。このくらい複雑な構造でも全然いけるんだなぁ。ジュウオウジャーの最初のDXロボとか簡略化されすぎてて子どもすら引いてたなぁ。低年齢児童のためにシンプルを目指したのかもしれないけど、そんな必要なかったよなぁ※2。そんな事を考えながらドクターイエローを頑張って修理しても、果たして子ども達は遊んでくれるのだろうか?わからない。それでもやる。
子供向けのおもちゃを売る商売は霞をつかむような生業だと思う。何が当たるのかさっぱりわからない。先がまったく読めない。外した場合の損失が大きいし、必要以上にあたってしまった場合の在庫管理も難しい。少子化で子供の絶対数が減ったうえに、親の多くは氷河期世代である。我々の世代の平均賃金は極端に少ない。その中での勝負である。こんな大博打を何十年間も何十億もかけてやっているバンダイと東映は、素直に尊敬に値する。なんだかんだ言って私は仮面ライダーディケイド以来、11年間連続で仮面ライダーの変身ベルトを買い続けている。あ、サンタさんが勝手に届けてくれたのもあるわ。サンタさんってば、親の意思に反して子供のお願い通りのものを勝手に届けてくれるから困っちゃうよね。サンタさんにお手紙書かれたら、しかたないよね。今年のサンタさんは一体何を届けてくれるのかな。楽しみに待っているよ。
※1リュウソウジャーは剣の武器が最も子供受けがよい。ニンニンジャーの剣以来の「ちゃんとした」剣のおもちゃだ。嬉しい。近年ちゃんとした剣のなりきりおもちゃが出ていなかったから、これはいい商品だと思う。ちなみに「ちゃんとした」剣のおもちゃとは、①音が鳴る ②光る ③可動部がある この3つを満たしていることである。これを満たしていないDX玩具のなんと多かったことか。ドリルクラッシャー君、ニンニンコミック君、ルパンソード君、パトメガボー君、ジカンギレード君、ジカンデスピアー君、アタッシュカリバー君、君たちのことだよ。
※2ジュウオウジャーの最初のDXロボは足が分離されず、あまりに稼動が少ない串刺し変形であった。最後まで見ると、14個ものキューブが可動変形合体する圧巻の全合体が見られるのだけれど……。(2019/9/16)
○○ロスの正体
ルパパト放送終了後、ルパパトロスをこじらせた私はルービックキューブをはじめた。もちろん目標は「ルービックキューバー」になることである。

半年かけ、私はついに一人で6面を揃えることができるようになった。子どもの頃から幾度チャレンジしても、まったくできなかったのに。ありがとう工藤。あなたのおかげだ。この歳になっても新しくできることが増えて嬉しい。まだまだ成長できる、その事実が嬉しい。
ルパパトロスへの薬として私は今、『ジュウオウジャー』と『ファントミラージュ』を交代で見ている。同じ香村脚本であるジュウオウジャーと、初美花ジェネリック感の強い衣装で何の憂いもなく「大切な人を守りたい!」と宣言するファントミ女子を見ていると、なんだか胃の中で混ざって回腸のあたりでルパパトかのような成分を摂取している気分になれる。周囲の人間には「体感幻覚では?」と指摘された。
すべてが終わった今だから言うけど、私は朝加圭一郎に何度も鞘師里保の面影を見ていた。まっすぐな黒髪、白い肌、小さい顔、意志の強そうな黒い眉、涼し気な奥二重から放たれる鋭い眼光、薄い唇がムニュッと波型に結ばれる笑い顔。赤を身にまとってセンターに立つ姿。ほら鞘師。鞘師でしょ。しかも隣にはお姉さんピンクと2人の緑がいるんだよ!?え、これ奇跡じゃね?これはもう9期でしょ!9期だ!やったあ!
私は大上先生に意気揚々と伝えた。
私「朝加圭一郎って鞘師にそっくりじゃない?顔がすごく似てる」
大上先生「……。君は鞘師が恋しすぎて、目がおかしくなってるんだね」
私「そんなことない!ほらこのスレッド見て!みんな鞘師と1号が似てるって言ってる!同じこと言ってるハロヲタ、たくさんいるよ!」
大上先生「それはみんな同じ病気の人でしょ」
私「え」
大上先生「患者会が開催されている場所だって言ってるの、そこは」
私「え?そうか、ここに『りほロス』患者が集まっているのか。え、それにしても、客観的に見ても似てるでしょ?奥二重だし唇薄いし黒髪だし色白だし赤い服だしセンターだし」
大上先生「……いや、そこまでは似ていない」
信じられなかった。私は朝加圭一郎がアップになるたびに鞘師を思い出していたというのに。30分の放送中で最低3回くらい鞘師の面影を見ていたのに。そっくりではないか。
ところがである。
2019年3月の「ひなフェス」で本物の鞘師が帰ってきて圧巻のステージを見たあとにルパパトの朝加圭一郎を見たとき、私はまったく鞘師を思い出さなかった。そこにいるのは朝加圭一郎という成人男性そのものだった。「なーんだ!ぜんぜん鞘師に似てないじゃん」と思った。その時期にちょうどファイナルライブツアーを観劇したため、魁利くんの「やっぱり兄貴とぜんぜん似てねーわ」という台詞に私の気持ちはぴったりと重なった。わかる、わかるよ魁利くん!魁利くんも兄が突然いなくなって、会いたくても会えないからこそ、兄ちゃんと圭ちゃんを重ねて見ちゃったんだよね!本物の兄が帰ってきて、二人を同時に見比べることができるようになったら「ぜんぜん違う」って気付くよね!私も同じだよ!!兄貴じゃなく鞘師だけど!!!!朝加圭一郎を見て「なんだ、ぜんぜん鞘師に似てないじゃん」って思った、私も!期せずして魁利くんの追体験をしちゃったよ!
さらに、ところがである。
ひなフェスのあと鞘師は再び表舞台からいなくなり、何の音沙汰もなく数ヶ月が経過した。そのころ私は期間限定上映の映画『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』を見に行った。そしたらね!画面の中の朝加圭一郎がもう何度も何度も何度も何度も何度も鞘師に見えるんだよー!うわーん!私はもうだめだー!病気だ!わかってる!病識はある!また「りほロス」になってるんだよおおお!しかも今後はりほロスのうえに、ルパパトロスまで加わるんだよ!!ひーん!私はもうだめだー!もう圭ちゃんでも兄ちゃんでも鞘師でもなんでもいいから、早く帰ってきてえぇぇぇぇ!
……そして私はいままた、性懲りもなく『ファントミラージュ』のファントミダイヤが鞘師に見えているし(赤だし、涼しげな目元だしダンス上手いし)さらにそのうえ『仮面ライダーゼロワン』のイズが鈴木香音ちゃんに見えている。だってさ、くりっとした目、ぱっつん前髪のおかっぱ黒髪、胸の曲線が際立つ銀色の衣装、しかも緑だよ。これはもうまじで香音ちゃんでしょ。『恋愛ハンター』の香音ちゃんだよ。わーい!やったー!かのんちゃんだー!かのんちゃんだー!わかってます、私はもうだめです。
※追記 鞘師はその後RIHOMETALとしてステージに帰ってきてくれました。ありがたいことです。複雑な気持ちを抱くハロヲタも多いとは思いますが、私個人はRIHOMETALを大歓迎しています。小学生だったアクターズスクール広島時代から続く鞘師とすぅちゃんの歴史が10年以上経った今でも続いていること、お互いのピンチに手を取り合ったこと、その協力が世界的な大舞台の上で行われていることがとても嬉しい。私は歓喜の涙を流しています。世界中のメイトのみなさん、鞘師をよろしくおねがいします。あ、鈴木香音ちゃんとルパパトはまだ帰ってきていません。(2019/9/10)
今日は一日 #ハロプロ三昧 を聴きながら
2019年8月16日金曜日の夜。
他人の病気を治し他人を健康にするために自らの身を削り精神の安寧を持ち崩している現状にひどく疲れ、汚いシーツの上でひとりうつ伏せになってNHK-FMの8時間生放送『今日は一日#ハロプロ三昧』を聴いていたら涙が流れてきた。
ラジオの終わりには『Happy大作戦』が流れた。この曲は疲れた心に染みわたる。「そうだ、もっと良いアイディアいっぱい出し合って切磋琢磨するしかない」そうだよね。それしかないって、わかってる。わかってるんだけど。こんな私だって、「恋も仕事も勉強も全部100%手は抜かない」で、ここまで頑張ってきたんだよ。
「世界はー!あーぁ!ひーとつー!」という歌詞でこの曲は終わる。でも。世界は本当に一つなのか?私にはそうは思えない。世界は隙あらば自分以外の他人を糾弾し、自分と違う属性を持つものを下に置き、立場の弱い人間から搾取する構造を構築する。今の私にはそのように思えてしまう。ああでも確かに、このラジオを聴いている間だけは!世界は一つだ!私たちは大きな「愛」という名の糸で繋がっている。そう思える。放送ブースにいるキラキラした娘たちと、夜中に一人部屋でradikoを聴きながら泣いている私と、私と同じように一人部屋でスマホを抱える孤独なリスナーたち。今まさに全員が電波の糸で繋がっている。同じ気持ちを抱えてこの夜を過ごしている。
そして放送が終わった瞬間、私たちはまた一人になる。空に向かって突然放り出されたような浮遊感が私を包む。
ハロプロの可愛い女の子たちを守るためだけに生きていけたら、どんなにかいいのに。
こんな私でも、疲れた金曜日の夜にそう思ってやまないときがある。
『46億年LOVE』という曲の中で「夢に見てた自分じゃなくても真っ当に生きていく今どき」と、雨子は語っていた。この曲は同時代性が高い歌詞として若い女性ファンたちに受けている。さっきラジオでそう言っていた。
でもね、私たちの世代は真っ当に生きてきたのに、気付いたら夢に見ていた自分からかけ離れていたんだよ。その乖離はどんどん広がって、もう取り返しがつかない。「取り返しが付かない」という残酷な現実が、今まさに私たちの目の前に突きつけられている。それが40代氷河期世代の現実だ。私たちの世代は同窓会ができない。同じ小学校、同じ中学校、同じ高校に通っていたのにもかかわらずそれぞれの社会的格差が開きすぎているからだ。私たちの世代は、ニートか引きこもりか生活保護か、派遣切りに何度もあって精神を持ち崩しながらも日銭を必死で稼いでいるワーキングプアか、なんとか正社員になったもののバブル世代とゆとり世代に挟まれた数が少ない世代として、働きづめで疲弊しきっている中間管理職しかいない。誰も同窓会など開こうとしないし、その余力も残っていない。賃金格差が激しいから、集まろうとしたところでどの値段の店を選んだらいいかもわからない。だんだん話題も噛みあわなくなってしまった。自家用車で言うならば、高級車持ちか、車自体を持ってないか。この二択しかない。「あいだ」がないのだ。私たちは分断されている。そして我々の親世代は要介護の年齢になり、自らはたっぷりと年金をもらいながらもなぜか我々の税金や人手を頼ってくる。いったい何を言ってるんだ?我々の世代を雇用せず賃金も上げず棄民したのはあなたたたちなのに?
私たちの世代にとって雨子の歌詞は前後が逆だ。「真っ当に生きてきたのに、夢に見てた自分じゃない」。それが氷河期世代の「今どき」である。女性ならばもう妊娠がしにくい年代になってしまった。男性だって40代で年収が低ければ、結婚相手が見つかる可能性が極端に低くなる。将来への希望がついえた瞬間に、自暴自棄になって世の中に漠然と復讐する人間も出てきてしまう。京アニを放火したクズもカリタス小学校のバスを狙ったクズも、(ついでにその報道を受けて高級官僚の父親に殺されてしまった練馬の無職男性も)ぜんぶ私と同世代だ。彼らや彼らの犯した犯罪を擁護するつもりは毛頭ない。彼らに殺された人たちもまた、私や私の子供と同じ属性をもつ弱い人間なのだから。彼らは残念ながら強い人間を狙わず、自分よりさらに弱い存在に牙を向ける。
汚ないシーツの上で一人ハロプロ三昧を聴きながら泣いている私の隣に、宮本佳林ちゃんみたいな女の子がそっと寄り添ってくれたらどんなにかいいのに。でも、そんな瞬間は私たちの元には永久に訪れない。この先も一生そんな瞬間は訪れない。自分には無縁のことだ。それに気付いてしまった。40年間ずっと真っ当に生きて、自分なりに手を抜かずに死ぬ気で勉強して死ぬ気で働いてきたのに。自分たちを取り巻く世界はもう永遠に変わらず、我々の世代が報われることはないと、私たちは気付いてしまった。
私も現世で徳を積んで、来世はハロプロに楽曲が提供できるオタクになることを誓う。前世において、私は少し徳の積み方の方向性を間違えてしまったようだ。音楽ではなく医療の方に、映像ではなく書籍の方向に行ってしまった。くそう。(2019/08/16)
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