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医師兼漫画家 森皆ねじ子

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完璧手技第1回 医療面接

皆さん、実技って、どこで習ってますか?邪魔者扱いされがちなBSLで、忙しくて気まぐれな研修医のセン セイが「キミキミ、留置針やってみないかい?」と言ってくれたとき?「やったーっ!!」て感じですよね。つまらないカンファや机の上でのお勉強は沢山あっ ても、実技をきちんと習うチャンスって、実はほとんどありません。ねじ子だってそうでした。今でもまだまだ下手くそだし、経験も浅いです。このページはそ んなひよっこ研修医がおくる、初歩の初歩かつ知ってるとちょっとプロっぽい小ネタ的な実技講座です。ひよっ子のくせに手技講座?おこがましい!という意見 もあるでしょう。だがしかし。ひよっ子にしかわからない、些細なことすぎて偉いセンセイ方には思いもつかない苦労というものがあるのです!!題して「ねじ子の!なんちゃってレジデントノート!!」。え?やっぱだめ?じゃあ「なんちゃって臨床研修プラクティス!」は?

さてさて記念すべき第一回は「医療面接」です。皆さんの学校もオスキーとかやってます?最近ではほとんどの学校で実施するようですね。「医療面接」という のはオスキーの中でも最も重視され、かつ話題に上がりやすい分野です。貴方の学校にも模擬患者さん来ました?怖かったですか?怒られました?やっぱり?

医療面接の礼儀というのは確かに重要です。医者として最も重要だと言っても過言ではありません。しかしなんだかオスキーの医療面接というのは妙に据 わりの悪いものがあります。なぜでしょう。なぜならそれは「お芝居」だからです!!医者でもないのに「医者のふり」。患者でもないのに「患者のふり」。学 生は初舞台だというのに、相手は百戦錬磨のプロの模擬患者さん。その上、偉い先生が学生の演技の一挙手一投足を評価しているのです。それはそれはすげぇ緊 張します。緊張しないはずがありません。

困ったときのガイドライン。オスキーの一般的な採点基準も実は、ガイドラインに詳しく載っています。それを見てもわかるように、診断ができる必要は 全く!ありません。あまつさえ「どこまで現病歴が聞けたか?」すらも大して重要ではありません。最も重要なのは「サービス業としての態度」です。挨拶だの アイコンタクトだの専門用語を使わないだの。お客様に礼儀を失さないようにと いう新入社員の社員研修と同様のものだと考えましょう。バイトで客商売をやっていたり、体育会系の部活の人などは、逆にそんなことは習わなくても知ってい たりします。そういう人には、オスキーの医療面接はあまり意味がありません。出来る人は出来るのです。逆に、それが出来ない人にある程度の失礼でない対人関係を身につけさせるために必要な儀式でもあります。

本気で丁寧語を使えない奴や、初対面の人にいきなり家族歴を聞いてしまう順序のなっていないヤツも、学生の中には確かに存在するのです。皆さんも一人や二 人、同級生の顔が思い浮かぶでしょう。そういう人もある程度「真っ当な」医者にするための、ひとつの大切な行事なのです。必要以上に形式張ったことを言わ れたり、過剰だと思うほどの服装や髪の色へのツッコミも御愛敬です。あきらめましょう。

ちなみにねじ子はマ●ドナルドでバイトしていた際に、接客業は死ぬときまで笑顔でというホステス的客商売根性をたたき込まれました。しかし恐ろしいことにそんなねじ子ですらも、忙しい時、真夜中の急患、能力を超えた仕事量でテンパってる時な ど、その気高くて清い「初心」を忘れてしまうのです。「それどころじゃねぇんだよ畜生」と思ってしまうのです。きっと医者として忙しくなればなるほど、偉 くなればなるほど、忘れていってしまいうのでしょう。現実の外来で、患者さんにはじめに自分の名を名乗る医者に会ったことありますか?……ほとんどないで しょう。

はっきりいって実際の臨床で「胸が痛い」って言われたら、とりあえず有無を言わさず胸ひんむいて心電図をとります。心筋梗塞だったら一刻を争うわけであり、のんびりと患者さんが心を開くまで打ち解けている場合ではありません。現実なんて、そんなもんです。でもそれは、ポイントを知っている人が敢えて無視しているだ けのこと。オスキーは「初心者のための儀式」です。普通自動車免許の仮免許試験と同じです。大げさに後ろを振り向いて、後方を確認している「ふりをする」 ことが必要なのです。たとえきちんと後ろを見ていなくても、振り向いたことをアピールすることが必要なのです。教習所で習った大げさな安全確認が、実は実 践でも非常に役立つ儀式であるように、オスキーで習った現病歴聴取の仕方も実は、現場でも非常に使えるテクニックです。馬鹿馬鹿しいと思っても、真面目に 演技しましょう。それが貴方の身になります。